この記事のしおり ひらく
きょうの道具紹介
効率や積載量、あるいは周囲への見え方。車を選ぶ理由はいくらでもあるけれど、私が行き着いたのは「そのフォルムを、その車を、愛せるか」という、単純で、けれど譲れない直感だった。
SUVのような広さや現代的な実用性を優先した方が正解に近いことは分かっている。それでも、ガレージに置いたその姿を眺めるだけでまだ見ぬ遠くの景色まで行きたくなるような、そんな高揚感を求めてしまう。
選んだのはBMW 2シリーズ グランクーペ(F44)。
厳つすぎず、かっこよさの中にどこか愛嬌のある顔立ち。BMWとしては小型なボディに凝縮された、流麗で、それでいて力強いクーペのライン。その絶妙なバランスに触れたとき、理屈よりも先に「このハンドルを握って旅に出たい」という想いが勝った。
きょうは私の旅の歩幅を広げ、移動そのものを喜びに変えてくれた愛車、BMW 2シリーズ グランクーペについて綴ってみたいと思う。
道具のひとコマ
小型であることの潔い美しさ

この車の最大の魅力は、その凝縮されたフォルムにあると思う。4枚のドアを持ちながらも、後ろに流れるルーフラインは優雅で、小型車特有の窮屈さを感じさせない。リアを見ればクーペらしい力強いラインが目を引く。この格好良さと愛らしさが同居した佇まいは、どこに置いても馴染むような気がする。
都会のビル群でも、緑の深い山道でも、海辺や湖畔でも。この車はどんな場所へ連れて行っても、その場を自分の居場所に変える魅力を持っている。
走りたい欲求に率直に応えてくれる

手に入れた当初、最も戸惑ったのはその敏感さだった。 ブレーキやアクセルに少し力を込めるだけで、車体は驚くほど機敏に、そして率直に反応する。最初はその反応の鋭さに自分の感覚が追いつかなくて、少しだけ驚いたことを覚えている。穏やかに流したいときでも、車の方が「もっと先へ行ける」と語りかけてくるような強い意思を感じたから。
けれど、数日、数週間、数ヶ月、月日が流れるにつれて私と車の波長は合っていった。今ではその鋭敏さこそが見知らぬ土地を走るときの頼もしさへと変わっている。
旅の始まりを告げる低い鼓動

旅の日の朝、まだ静まり返った空気の中で運転席に座り、ブレーキを踏んでエンジンをかける。 その瞬間に吹き上がるような低いエンジン音。これが日常という境界線を越え、遠くに行きたいと思う旅人へのスイッチを入れてくれる。これからのドライブへの期待がその音と共に胸の奥で強く脈打つのを感じる。
旅先で感じたこと
実際に数多の距離を共にして感じたのは、この車が私の意図にどこまでも忠実であるということ。BMW2シリーズグランクーペはステアリングとタイヤを通して路面の状況を誠実に教えてくれる。
BMWのキャッチコピー「駆けぬける歓び」という言葉は、決してスピードを出すことだけを指すのではないと思う。自分の意思がそのままタイヤに伝わり、景色を切り裂いていく。車と道と私の対話、一体感を表した言葉なのではないだろうか。
いいところ
一番の魅力は、走るための道具に特化しているという点に尽きる。 意図した通りに動き、止まり、曲がる。その当たり前すぎるほど誠実な反応が長距離ドライブの負担や不安を安心感で上書きしてくれる。また、コンパクトなサイズゆえの取り回しの良さは未知の道への恐怖を和らげてくれる。
コンパクトさと誠実さ、これらを併せた機動力こそが旅の質を大きく変えてくれた。こいつとならどこまででも走っていけると思わせてくれた。
惜しいところ
惜しいところは、その敏感さゆえのゆとりの少なさかもしれない。 疲れているときにぼんやりと運転することを許してくれないような、そんな活発すぎる一面がある。
運転手の意思に忠実だからこそ、ちゃんと向き合わないといけない。少し踏むだけで加速する、少し踏むだけでブレーキがしっかりとかかる、それがこの車。ぼんやりと運転していたらその機敏な動きが不快感へと変わる。けれど、その「運転手としての自覚を常に求められる感覚」は良いものだと思う。
そっと置いとく、豆知識
グランクーペという名
大きなクーペ。 相反する言葉を繋げたその名前には、美しさと実用性を両立させようとしたBMWの矜持が込められている、そんな気がする。実際に後席へ人を乗せる場面ではそのタイトさに苦笑いすることもあるけれど、その割り切りも含めて愛おしいと感じている。
長距離走行を支える誠実なシート
ドイツ車らしい少し硬めのシート。 最初は無機質に感じるかもしれないけれど、数時間走り続けたあとに腰に痛みが全くないことに気づく。見た目の華やかさよりも座る人の体を守ることを優先した設計。その誠実さは流石ドイツ車と言わざるを得ない。
次の旅へのおとも予想
便利なスライドドアでもなく、運転しやすいSUVでもない。 それでも遠くへ行きたいと思った時や待ちに待った旅に出る時、私は決まってこのBMW2シリーズグランクーペの鍵を手にする。
エンジンをかけ、低い鼓動を全身で感じる僅かな時間。 自分の中に旅人としての覚悟を宿す。この車は他のどの道具よりも、私の移動という時間を豊かにし、新しい風景へと誘い続けてくれるだろう。
次にこの車とドライブするのは、あの先のさらに先まで行ってみたいと思った時。旅をすると決めた少し冷え込んだ朝。ステアリングの感触を確かめながら、またアクセルを踏むことになるのだと思う。

