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きょうの旅のはじまり
訪れたのは11月の終わり、まだ嵐山に紅葉が残っていた頃。朝6時台にJR嵯峨嵐山駅に到着した。目的ははっきりしていて、早朝の嵐山を歩いてみること、それだけ。
駅を出た直後はあたりにうっすらと白い靄がかかっていた。空気はひんやりとしているけれど身構えるほどの寒さではない。トレンチコートを羽織って歩くにはちょうどいい、そんな散策日和の気候だった。
この時間の嵐山は驚くほど静か。昼間はあれほど人で溢れる場所なのに、駅前にも通りにも人影はほとんど見当たらない。一大観光地だけど観光地としての姿をまだ見せていない、普段ならありえないほど静寂と落ち着きに包まれた空間だった。
この日は長時間滞在をする予定はなくて、2時間ほど歩いたら戻るつもり。JRの駅から渡月橋へ、川沿いを通って竹林へ、ぐるりと散策して、またJR嵯峨嵐山駅に戻る。そんなシンプルな計画。
きょうは秋の早朝に歩いた嵐山でのひと時を振り返ります。
写真で歩く「早朝の嵐山」
静寂の朝、JR嵯峨嵐山より

旅の始まりはJR嵯峨嵐山駅から。日中は観光客で溢れるこの駅も、早朝は思っていた以上に静かだった。改札を出ても人の姿はほとんどなく、駅前に立っても物音が少ない。ここが観光地の玄関口だということを一瞬忘れそうになる。
これから歩く嵐山は昼間とは全く違う表情をしているはずだ。そう思うと少しだけ気持ちが引き締まった。子供の頃に夜中や早朝にそっと外に出た時のような、不思議な感覚がした。
嵐電の踏切を渡る


駅から歩いていくと嵐電の踏切がある。なんてことない踏切も、静寂に包まれたこの場所で見るといつもとは違って見える。ホームに停まる嵐電もどこか静かに佇んでいるようだった。
普段なら観光客が足を止める場所だけれど、立ち止まっているのは自分だけ。早朝の嵐山を歩いているという実感が少しずつ湧いてくる。なぜか悪いことをしている気がして少しワクワクした。
いつもと違う嵐山の顔

渡月橋へ向かう道も人はほとんどいなかった。店はまだ閉まっていてシャッターが並ぶ通りを淡々と歩く。観光地特有のざわつきがない分、足音だけがよく響く。
この時間帯に歩く嵐山は知っている風景とは別物に見えた。朝焼けを撮りたい人をはじめとした、ほんのわずかな人しかいない落ち着いた空間が心地良い。
時間がゆっくり流れる渡月橋

渡月橋に出ると視界が一気に開ける。川の向こうには鮮やかに色付いた山が見え、朝の光が少しずつ広がっていく。靄はまだ完全には晴れていなかったけれど、それがかえって静寂な雰囲気を強めていた。

橋の中央あたりで足を止める。橋の上に立っても周囲に人はほとんどいない。川の流れは穏やかで、水の音がはっきりと聞こえる。
昼間なら立ち止まることすら難しい場所だけれど、今は時間がゆっくり流れている。渡月橋を独り占めしているような不思議な時間。しばらくの間、ぼーっと桂川の流れを眺めるという贅沢な朝を堪能した。
秋を知らせる案内板


桂川沿いを少し歩くと紅葉に彩られた案内板が目に入る。派手さはないけれど、秋を静かに伝えてくれるように感じる。何気ない案内板も、どこにでもある蛇口も、紅葉がバックにあるだけで秋の風景に様変わり。
風情を感じるのはここが嵐山だからか、それとも紅葉の美しさのおかげなのか。そのようなことを考えながら歩みを進めた。
足元に残る秋

落葉を踏みながら歩く。乾いた音が足元から伝わってきて、歩いていることを強く意識する。開けた場所があったからマタニティフォトチックな写真を撮ってみたり。楽しみつつ歩みを進める。嵐山はまだまだ広い。

視線を落とすと靴先と地面だけが写る景色になる。お気に入りの靴であるトリッカーズは秋が似合う。英国由来のこの靴は京都の風景にもしっかり馴染んでくれる。
目で楽しみ写真を撮り、靴音を楽しみ歩みを進める。お気に入りの道具でいつもとは違う嵐山を感じる。早起きして本当によかった。
静けさに包まれた竹林

高く伸びた竹の間を朝の光が少しずつ差し込んでくる。観光客で賑わう竹林しか知らなかった分、この静けさは新鮮だった。ここまで歩いてきて早朝に来た意味をはっきりと感じた。

竹林をしばらく歩き回っても人の姿はそれほど多くない。朝早くから観光を始めた外国人が僅かにいるぐらい。ただ、朝日とともに人が増えてきている。もう間もなく嵐山はいつもの観光地に戻るのだと思う。
いつもの観光地になる前に戻ろう。そう思いJR嵯峨嵐山駅へと歩みを進め、帰路へとついた。
ふと、思ったこと
観光地を始まる前に歩くということ
朝の嵐山は観光地というより普通の町に近かった。犬の散歩をしていたり出勤していく人がいたり。観光地という意識の強い場所でも、どこにでもあるような生活が営まれている。
観光客がいないだけで、同じ場所でも受け取る印象はここまで変わるんだなと実感する。賑わう前の時間帯には、その土地の素の表情が残っている気がした。
音がやけに印象に残った
落葉を踏む音や川の流れる音。植物が風で擦れる音、箒を掃く音。昼間なら気にも留めないような音だけど、静かな時間帯だと不思議と記憶に残る。音に耳を傾ける時間が多い散策だった。
まったく別の場所に感じる
昼の嵐山を何度も歩いてきたはずなのに、この朝の景色は新鮮だった。知っている場所なのに初めて訪れたような感覚になる。時間を変えれば見知った場所でも全く異なる表情を見せてくれる。そんなことを実感した。
そっと置いとく、豆知識
早朝の嵐山はどこも人が少ない
渡月橋や竹林といった定番の場所も、朝早い時間帯は驚くほど静か。観光客が増え始めるのはだいたい8時頃からだった。朝日が出ると少しずつ人が増え始めて、お店が開き始める前にはいつもの嵐山に戻る、そんな感じ。
JR嵯峨嵐山駅からはどこも徒歩圏内
渡月橋や竹林方面へはJR嵯峨嵐山駅から歩いて向かえる。朝の散策ならJRの始発に乗っても徒歩だけで十分。嵐山は広い観光地だけど、ほとんどの主要エリアを徒歩で回れるから早朝観光に向いている。
秋の終わりは紅葉と落葉が楽しめる
11月末ごろは色づいた紅葉と落ち葉が混ざる時期。派手さはないけれど季節の移り変わりを足元で感じやすい。嵐山は紅葉の時期がピークシーズンになるけれど、朝なら人も少ない。
旅の余韻でしめくくり
この日の嵐山滞在は8時過ぎまでの短い時間だった。太陽が高くなるにつれて人の数も一気に増えていく。行きに通った道が、帰りには別の景色に見えるほどだった。
早朝に歩いた嵐山は特別なことが起きたわけでも、何かを成し遂げたわけでもない。ただ静かに歩き、写真を撮り、空気を感じただけ。それでも記憶には強く残っている。観光地は人がいてこそ成立する側面もあるけれど、人がいない時間帯だからこそ見えるものもあった。
次に嵐山を訪れる機会があれば、次も朝の時間帯を選ぶかもしれない。そう思うほど朝の散策は素晴らしいものだったように思う。この日の短い散策には十分な価値があった。

